ヘアッ! シン・ウルトラマン
私の名前はチューペット芽恋。街の片隅でしがないバーの店長をしている華の30代。
二月の夕暮れも終わり、17時の東京はもう暗く、そろそろ定時を迎えたサラリーマンが列を作り群れを成し、飲み屋街へと消えていくのも時間の問題。
昨日。私も古い友人から飲みに誘われたのだったが断った。
予定も無く、行っても良かったのだが、代わり映えのない日常に逆らいたく、今日は人の波に逆らってみよう。
なんとなく、そう思った。
人の波に逆らって歩くと、人々が時間の流れ通りに進んでいくように思えて、逆の私はまるで時間に逆行しているかのように感じる。
このまま時が戻って、世界が今見たく灰色になる前の、色鮮やかだった頃に戻れたらいいのに。
ピアニッシモに火をつけて、そっと吸い込んで吐いた。
灰色の煙は東京の夜へと薄れて消えた。
繁華街を歩いて少し抜けると狭い路地に入り込んだ。
すると、レンガで塗装された小さな喫茶店が眼に入った。
歩き疲れて喉も少し乾いている。
私はその喫茶店に足を運ぶことにした。
店名『喫茶 庵野』
「いらっしゃい」
お店で待っていたのは寝ぐせに無精ひげのおじさん。
「メニューをいただけるかしら?」
カウンターに座ってピアニッシモに火をつけた。
「うちはメニューはひとつしかありません。よろしいですか?」
変わったお店。
「いいわ。とっておきのやつを頂戴」
「では」
そう言い残すとマスターは店の中へと入っていった。
タバコ一本分吸い終わったタイミングでマスターがカウンターにまた顔を出してきた。
「こちらになります」
『シン・ウルトラマン』
「・・・コーヒーとかを期待していたんだけど」
「当店ではお客様にあった物を提供したい。それがモットーです。ので」
仏頂面に語るマスターは続けて
「お客様は喉よりも心が乾いておられるよう。ですのでこちらを」
「ウルトラマンって、私もういい大人よ?刺さるわけないわ・・・」
「ウルトラマンは嫌いですか?私は好きです」
「私も昔は熱中したものよ。でもこれなに?リメイク?作り直したの?どうせ最近の作品にありがちなジャニーズ起用やアイドルのゴリ押しとかしてるんでしょう?」
「斎藤工」
「!」
「長澤まさみ」
「!」
「いけませんか?」
「・・・文句の出しにくいところを突いてきたわね」
「でも、どうせ政治思想や下手なCGが出るに違いないわ!仮面ライダーブラックで学んだの!」
「政治思想?くだらないですね」
「!」
「CG?こちらになります」
「!」
「ご満足いただけませんか?」
「まだよ!これは何?カラータイマーが無いじゃない?!カラータイマーなくして果たしてウルトラマンって言えるかしら?」
「原案です」
「なんですって!」
「そういう方もいらっしゃるかと思ってエネルギー切れをウルトラマンの色が赤から緑へ変化させることで分かるようにしました」
「親切!」
「ご理解いただけましたか?」
「まだよ!怪獣は?敵がまだ出てきて無いわ!どうせドタバタ人間模様だけ描いて最後にそれっぽいやつ倒して終わりよ!」
「ネロンガ」
「!」
「ガボラ」
「!」
「ザラブ」
「!」
「メフィラス」
「!」
「ゼットン」
「!!!」
「足りませんか?」
「はぁ、はぁ、十分よ。そしてバルタンでしょ?」
「・・・」
「バルタンよ?」
「・・・」
「ねぇ!バルタンも出るんでしょう?!」
「ふぉっふぉっふぉ」
「誤魔化すんじゃないわよ!」
「ゾフィーは出るよ」
「あぁ!もう許す!」
1時間52分後
喫茶店を後にした私は来た道を戻り、相も変わらず人の波に逆らっていた。
人々はネオンの中に飲み込まれていく。
私はそんなネオンを背に帰路へと向かう。
来たときは感じなかった街の光が少し眩しく、鮮やかに見えた気がした。
昔見ていた景色の色を少し取り戻した気がした。
ピアニッシモを手に取り火をつける。
灰色の煙は相変わらず夜空に薄れて消えていったが、東京では珍しく暗い夜空に一つの星の光が目に留まった。
「M78星雲?87星雲かしら」
フッと笑みがこぼれて、私はまた歩き出した。
おわりに
視聴後、こんなありもしない記憶が蘇ってくるような作品でした。
ゴライアスMKです。
なーんかリメイクだのリマスターだのリブートだのと最近は昔の思い出を汚すような作品って増えましたよね。
今回のシン・ウルトラマンもそんな最近の風潮のせいで、気にはなっていたんですが、どうも手が伸びずにこんなに時間が空いてしまいました。
正直リメイク作品としてはやることはやってくれたなと思える出来でしたね。
途中、長澤まさみが巨大化したあたりは「あーちょっと癖出てんなぁ」とは思いましたが、ここまで作ってくれればもう文句付けたら野暮ってもんでしょ。
庵野さん、ウルトラマン好きなんだなぁー。というのが伝わってくるいい作品でした。
シン仮面ライダーの期待が上がりましたね。